こんにちは、認知症ZEROです。
「認知症かもしれない」と診断名を告げられたとき、その言葉はご本人やご家族にとって本当に良い方向に働くのでしょうか。
今回は、認知症の診断プロセスで実際に何が起きているのか、そして診断名そのものよりも大切にしたい家族との向き合い方について、船木先生に伺いました。
診断を急ぐことよりも大事なことがある――そんな視点をお届けします。
※本記事の内容は、船木先生の長年の臨床経験に基づく見解です。
1認知症の診断は、点数だけでは測れない

認知症の評価は、インタビュー形式で物を見せたり計算してもらったりする方法が一般的です。ただ、これがなかなか一筋縄ではいきません。

船木先生
「医者もその人にとっては他人ですから、なかなか心開かないと点数が安定しないんですよね」

木曽さん
「そこに情緒的な要素も絡んでくるんですね。ちゃんと向き合ってくれるという前提がないと、チェックシートも意味を持たないってことですね」
評価というと客観的な数字が出るだけのように思われがちですが、実際には人間関係が大きく点数を左右します。
心を開いてもらえるかどうかが、正確な評価の前提条件になっているのです。
2心を開いてもらえる関係づくりが評価を左右する

2回、3回と診察を繰り返し、人間関係を作っていく中で、
✔️ その人が特に大事にしているもの
✔️ 過去に一番輝いていた時代の話題
を、ご本人から聞き出していきます。
出身地の話、お祭りの話――そういった雑談を重ねているうちに、どんどんその人の中から話が出てくるようになります。
「こいつと話してもいい」という関係を作ってからの評価は、点数がまったく変わってきます。
急いで評価しようとせず、まずは開示できるだけの関係性を作ることが重要なのです。
3診断結果を伝えることが、必ずしも良い方向に働くとは限らない

一般的な評価法で怪しいと感じる点数が出たとしても、それだけで「認知症ですね」と診断を下すことに、私は今、1つの価値を感じていません。

船木先生
「可能性がある、ということをご本人、そのご家族にそれを話すこと、またそれを聞いた側が受ける戸惑いやショックというのは、必ずしもご本人の今後を見ていく上でいい方に働くとは限らないんですよね」
例えば、「一緒に生活を改善しようと言ったのに、お母さんがそれに反対して好き放題やっていたから、こうなってしまったのよ」というように、余計な攻撃がご本人に向いてしまうこともあります。

木曽さん
「そうか。むしろ悪化するきっかけになってしまう可能性もあるってことですね」
家族の関係性をよく見ながら、とかくゆっくり、焦らずに経過を見ていく。何があったのかを細かく教えてもらう。この姿勢が欠かせません。
4本人と1対1で向き合う時間が生む変化

必ずしもご家族と一緒に来られるとは限らないので、ご本人が場所を覚えて1人で来られるようであれば、家族を抜きにした時間を作ります。
第三者のバイアスがかからない環境で、心をきちんと開ける環境を作るということです。
そうすると、「本当はもしかして自分はボケてしまったのかな」という不安をきっかけに、娘さんがしょっちゅう来てくれるようになった、お孫さんがちょいちょい顔を出してくれるようになった、ということが起きます。
それが嬉しくて、「本当は覚えていたけど、もの忘れたって言っちゃったんだよね」と本当のことを話し出すこともあるのです。
一般的に、本物の認知症であれば、ご本人はまず「自分が忘れた」「思い出せない」という事実そのものを認めません。
認めたくないという気持ちもあれば、そもそも忘れているから覚えていない、思い返せないということもあるでしょう。
一方で、「昔からうるさい娘が、自分のやることなすこといちいち口を出してくるから、面倒くさくて全部忘れたと言っただけ」ということもある。
だからこそ、ご本人だけでお話しする時間が大切になるのです。
5症状の裏にある「本物かどうか」の見極め

結果として、既往歴や過去に指摘されている病気、身体のフレイルといったものも、直接「手は震えますか」と聞いてもわかりません。
会話をしながらご本人をリラックスさせ、わざと字を書かせたりして、震えが出てくるかどうかをご本人に悟られずに観察しています。
椅子から立ち上がる時の一歩の遅れなど、こうしたちょっとした所作をずっと見ているのです。
もしこれは要注意だと感じたら、認知症の症状だけでなく、それに伴う症状があるかどうかでタイプを分類していきます。
6アルツハイマー型認知症は20〜30年前から始まっている

いよいよ本物の認知症だという段階になると、治療方針の話になります。
ただ、正直なところ、今の段階でこれといった特効薬はありません。かといって「どうしようもないですね」というわけにもいきません。
ご家族から「お盆に帰ってきたら様子が変わっていた」というような話を聞くことが多く、「もうそういう年なんでしょうかね」と聞かれることがあります。

船木先生
「その時に私がいつも申し上げるのは、それは違うんだと。特に研究が進んでいるアルツハイマー型の認知症は、その病気が実際に始まる、頭の中の組織の変化が目に見える形で始まるのは、今の研究で分かっていることを手がかりにすると、最低でも20年、最近では30年前からと言われています」

木曽さん
「それは周りの方々が気づかないレベルから、ということですね。気づく症状が出てきた時には、もう30年ぐらいの時間が経っているってことですね」
1個の細胞だったものが監視の仕組みをすり抜けて、大きくなって、「これは癌だ」というところまで育つのに20年ほどの時間がかかっている。
認知症については、もっと前から始まっていると私は考えています。
7家族全体でリスクを受け止める意味

これが何を言いたいかというと、お父さんお母さん、ご主人奥様の様子を見て、率直に「ボケてしまった」「なんでこの人はこんな風になってしまったんだろう」ではなく、あなたも同じ生活をしてきましたよね、ということなのです。
先にその症状が出てきただけで、もしかしたら自分も同じような病気を自分事として抱える可能性が非常に高い場所にいる。
そのことをまず認識してもらう。
結論としては、先に症状が出てしまった人の進行を抑えたいというだけでなく、患者さんのご家族についても最初から症状を発症させないよう、みんなで一緒に頑張りましょう、ということです。
症状が出た本人だけが対象ではなくなるのです。

木曽さん
「20年、30年前にそのタイミングで結婚されていたとしたら、そこから毎日一緒に生活していく中で、原因となるものを2人で同時に培っていた可能性があるってことですね。そう考えると、決して他人事ではないですね」
先に症状が出ている方はもちろん大事ですが、ご本人にも症状が出る可能性がある。
そのことをきちんと受け止める環境を、家族の中で作っていく必要があります。
コミュニティまで広げなくても、まずは家族の中で「親父もああなってしまったよ」ではなく、一緒にみんなで家族全体の大事な課題として見守っていく。
自分たちも原因となりうるリスクを取り除いて、みんなで元気に暮らせるように頑張っていく
――そのきっかけにしてもらいたいと思っています。
8認知症予備軍チェックシートづくりへの想い

今までの経験や、科学的に証明されているデータをもとに、みなさんのためのチェックシートを作っています。

木曽さん
「20年、30年前から認知症の元となる部分が始まっているというのは納得できるのですが、それを知るアプローチってあるんですか?」

船木先生
「私も同じように考えてきたんですけども、体系化されたものはないんでしょうね。断片的に、こういう習慣を持っている人、こういうものの考え方をしている人に結果として認知症が起きやすい、ということはバラバラに言われているんですが、一般の人たちがアプローチできる情報にはなっていないと思うんですよね」
自分がどれぐらい将来認知症になりうるリスクを持っているかを早いうちに気づき、今どれぐらい予防できるかが数字に出てくる時代だからこそ、早く気づいて早く対策を立ててもらうことが非常に大事だと思っています。
ご自身のリスクをご自身で評価できるシートを、今作っているところです。
食事が認知症に及ぼす影響は明らかに大きいものですが、それだけではありません。
考え方の傾向、生活習慣、入浴の頻度といった要素それぞれに点数の重みを持たせて、総合スコアでご自身のリスクを数値化できればと考えています。
このチェックシートはまだ完成しておらず、視聴者のみなさんからの忌憚のないご意見を募集しながらブラッシュアップしている段階です。
実際に認知症のご家族がいらっしゃる方の知見も、データとして非常に価値があるものです。
💡まとめ
- 認知症の評価は、点数だけでなく本人との信頼関係づくりが土台になる
- 診断名を伝えることが、必ずしも本人にとって良い方向に働くとは限らない
- ご本人だけの時間を作ることで、本音が見えてくることがある
- アルツハイマー型認知症は、症状が現れる20〜30年前から始まっていると考えられている
- 症状が出た本人だけでなく、家族全体で生活習慣を見直すきっかけにすることが大切
- 認知症予備軍チェックシートは現在作成中で、視聴者からの意見も取り入れながら改善を重ねている
本記事の内容はこちらのYouTube動画でお話ししています。
診断の裏側で何が行われているのか、そして家族全体でリスクと向き合う意味について、船木先生が丁寧に語ってくださっています。ぜひご覧ください。
※本チャンネルの内容は、医療・健康に関する情報提供を目的としたものであり、特定の診断・治療・予防効果を保証するものではありません。気になる症状がある場合や治療中の方は、必ず医師など専門家へご相談ください。